Minimally invasive surgery for foot deformities
概要
変形した足趾の矯正には、小切開による経皮的手術、最小侵襲手術(MIS : Minimally Invasive Surgery)を中心に行っています。
MISは、靴文化の先進国である欧米を中心に開発された方法です。第1〜3世代の手術法がありますが、アジア諸国では第3世代手術はまだあまり行われておらず、 我が国では2021年現在、当科でしか行っていません。
2011年にこの手術を開始して以来、 2014年までに海外で行われた手術実習に合計7回参加(バルセロナ大学病院4回、ブライトン・サセックス大学病院2回、ルイジアナ大学病院1回)し、日本人に合うように工夫、研鑽を重ねてきました。その甲斐あって、2015年にシドニーで開催された国際最小侵襲足の外科学会(旧GRECMIP、現MIFAS)主催の手術セミナーでは、インストラクターを務めさせていただきました。
具体的には、小型のメス(幅1.5mmと3mm)および特殊な骨切り用の器械を使い、幅 2 〜10mm(平均4〜5mm )ほどの小切開を組み合わせることで、様々な足趾変形に対応しています。
外反母趾および内反小趾を手術した例です。矢印は内反小趾の手術部位です。
長所:小切開
原則として止血帯(ターニケット)を使用しない
手術時間が比較的短い
術後の痛みが少ない
早期リハビリが可能
短所:症例によって、従来法でないと対応できない場合があります。(この場合も、可能なら部分的にMIS手技を活用することで、切開を最小限にしています。)
適応となる症例:
母趾: 外反母趾、強剛母趾など
他趾: 槌趾、ハンマー趾、鷲爪変形、内反小趾、中足趾節間(MTP)関節の(亜)脱臼、中足骨頭部痛、胼胝形成など
適応にならない、またはなりにくい症例:
経皮的手術では矯正しきれないほどの重度の変形。
扁平足など、他疾患によって生じた外反母趾、足趾変形など 。前足部の矯正だけでなく、後足部の矯正も必要になること があります。この場合も、前足部の部分については、経皮的手術で対応可能なことがあります。
喫煙、糖尿病、重度の肥満など。従来の術式でも注意が必要です。
(*すべての足趾変形に適応があるわけではありません。最終的な術式は、実際に診察・検査をさせていただいた上で決 めています。)
合併症: 基本的に従来の術式と同じで、以下のような合併症の恐れがあります。ただ、発生率は従来法と同等、または少ないとされています。
感染、神経・血管・腱損傷、熱傷、縫合不全、骨癒合不全、中足骨頭壊死、内固定材による刺激症状、内反母趾、浮趾、再発、変形性関節症の進行、疼痛部位の変化、関節可動域制限、麻酔や抗生剤・鎮痛剤などによる副作用、深部静脈血栓症、肺塞栓症など。
術後のリハビリ:外反母趾または足趾変形の手術だけ行った場合、麻酔方法にもよりますが、手術当日または翌日から、靴型装具を付けて歩行訓練を開始し ます。
ただし、当初は腫れるので、足部の冷却と挙上が大事で、短時間の訓練から始めます。他の足趾手術と同様、術後3ヶ月くらいはむくむことが多いですが、 個人差があります。
術式によって、主に2つの靴型装具を使い分けます。装着期間は6週間くらいですが、術式や骨癒合等によって変わることがあります。
(*痛みや併用した術式等により、リハビリは変わることがあります。疾患や併用した術式等により、装具は変わることがあります。)
入院期間:
*海外では、ほとんどが日帰り手術ですが、日本では保険制度などの諸事情から、短期間の入院になることが多いです。
抜糸は術後平均2週ですが、経過が順調なら早期退院も可能です。 ただし、併用した術式などによって、変わることがあります。
仮固定に鋼線を使った時には、1か月くらいで鋼線を抜く場合が多いです。 内固定のスクリューは、トラブルがなければ抜かないことも多いです。抜く場合は、局所麻酔または足関節ブロックで、日帰り手術が可能な場合もあり、相談させていただいた上で決めています。
疾患と実際の手術例
A.外反母趾 外反母趾の手術法は200種類以上あるとも言われますが、当科では、重症度等によって主に下記の方法を使い分けています。
(1)MICA法( Minimally Invasive Chevron Akin法)
第3世代型の手術法で、現在、一番多く行っている方法です。軽度から重度の幅広い外反母趾に適応があります。術後早期から、靴型装具をつけて足底全体の荷重が可能で、他趾の矯正が必要な場合も同時に行いやすいなど、メリットが多いためです。詳しくは、別の項目「外反母趾のMIS」を御覧ください。
この例では、内反小趾も同時に矯正しています。
(2) 経皮的 DLMO 法
軽度から中等度の外反母趾で、糖尿病や喫煙、阻血や皮膚・爪障害、感染がなく、術後1か月のかかと荷重による歩行が守れ、ワイヤー刺入部の清潔を保てる方で、外反母趾以外の足趾矯正が不要な場合が、当科での主な適応です。長期かかと荷重のため、特にご高齢の方だと、足関節、膝、腰痛などを訴える方もおられるので、適応を限って行っています。
(3) 第1中足骨近位closing wedge骨切り& Akin 法 (海外では、basal osteotomyと呼ばれるも多いです)
こちらも第3世代型の手術法ですが、より重度の外反母趾に行います。術後、かかと荷重が6週間必要です。長期かかと荷重のため、特にご高齢の方だと、足関節、膝、腰痛などを訴える方もおられるので、適応を限って行っています。
この例では、第3MTP関節脱臼とハンマー趾を合併していたため、同時にMISで矯正しています。足趾の長さを調整するため、第3趾も短縮しています。
(4)経皮的Lapidus法(関節固定術)
超重度外反母趾や、リウマチなどで第1足根中足関節に不安定性のある場合に行います。この手術も、術後、かかと荷重が6週間くらい必要です。メリットもありますがデメリットもあり、適応を厳密に絞って行っています。
この例では、同時に第2,3リスフラン関節の固定もMISで追加しています。
B. 強剛母趾
軽度から中等度の場合、 関節縁切除 cheilectomyという、背側の骨棘を削る手術を行います。確認や洗浄のため、関節鏡を併用することもあります。経皮的な楔状骨切り(基節骨または中足骨の矯正骨切り)を追加することもあります。 より重症な場合は、よくご相談の上で関節固定術をお勧めしています。詳しくは、「強剛母趾のMIS」をご覧ください。
C. 内反小趾
いくつかの術式がありますが、当科ではタイプに応じて第5中足骨の骨切り部を変えることで、全タイプに対応しています。詳しくは、別の項目「内反小趾のMIS」を御覧ください。
この例では、両足とも、内反小趾と外反母趾を同時に矯正しています。
D. 第2MTP関節(亜)脱臼
重度外反母趾や関節リウマチに合併することが多く、ほぼ全例で、同時にハンマー趾の矯正が必要です。完全脱臼の場合は、MISだけでは脱臼整復が不十分なことがあるので、よくご説明した上で行っています。脱臼していること自体には痛みはなく、脱臼に伴って足底や屈曲したPIP関節背側に有痛性胼胝ができて靴が履けないというのが患者様にとっての問題なので、そちらに対応できれば完全整復は必要ないのではないか、という意見もあります。(詳しくは、別の項目「ハンマー趾、MTP関節脱臼」をご覧ください。)
E. ハンマー趾
従来は腱移行や関節固定などが行われていましたが、関節が固くなったり浮趾や屈曲できなくなったことが気になる場合もあり、なるべく関節を温存するようにしています。関節の硬さなどに応じて、いくつかの手技を組み合わせます。ほとんどの場合、短趾屈筋腱切りと、中足骨や基節骨の骨切りが必要です。伸筋腱切りや中節骨の骨切りも追加することもあります。(詳しくは、別の項目「ハンマー趾、MTP関節脱臼」をご覧ください。)
選択的短趾屈筋腱切離を行った例です。
この例では、MTP関節の整復と外反母趾の矯正も同時に行っています。
F. その他
使う道具はシンプルですが、他にもさまざまな応用ができるので、成績が出次第、順次ご紹介させて頂く予定です。
別の項目で、「リスフラン関節症のMIS」、「趾間胼胝のMIS」、「内転中足をともなう外反母趾のMIS」についても記載しましたので、ご参考にしていただければと思います。
ご興味のある先生で、参考文献を探しておられる方に、MIS足の外科センターからのおすすめの書籍を掲載しておきます。