ハンマー趾、MTP関節(亜)脱臼のMIS

Minimally invasive surgery for hammertoe correction with/without MTP subluxation/dislocation

ハンマー趾とは

きつい靴を履き続けると、足先が絶えず曲がった状態になり、それがクセになってしまいます。また、足の骨折で腫れが強いと、足の中の筋肉が固くなってしまい、その結果として足指が曲がってしまいます。その他、関節リウマチや、神経疾患で指を曲げる筋肉が萎縮して指が曲がってしまうこともあります。

 指先が下を向いてしまうため、本来地面と接することのない指の先端が当たって痛くなったり、指の背の部分が靴とこすれて痛い胼胝ができたりします。

 曲がっている部位によって、マレット・トー(槌趾)、ハンマー・トー(ハンマー趾)、クロ―・トー(鉤爪趾)の3タイプに分類されます。ちなみに、マレットは小槌のことで、ハンマーより小さいものだそうです。それぞれのタイプの境界がはっきりせず明確に区分しにくいので、ここではまとめてハンマー趾と表現させていただきます。

 下の写真のように、第2関節(PIP関節)背側が靴に当って、胼胝ができて痛い、足底にも胼胝ができている、というのが典型的で、外反母趾を合併していることが多いです。

手術の適応、非適応

靴の工夫やパッドでは痛みが改善しない、靴の選択が難しいなどの場合、手術をしています。特に、MTP関節が脱臼してしまっている例では、残念ながら装具などでは改善の余地がないので、手術をお勧めしています。足底挿板は、外反母趾を合併している場合は有効なこともありますが、特にMTP関節が脱臼してしまっている例では、靴の中に中敷きが入ることで靴底の高さが増した分、余計に第2趾の胼胝が靴に当たってしまうこともあります。

 手術をお勧めしないのは、現在明らかな感染がある、阻血性疾患の合併、重度の糖尿病、喫煙する、術後の安静が守れない方、小児などです。が、変形が治らなければ感染も収まらないので、手術せざるをえないという場合もあります。

当科での手術法

ハンマー趾の矯正は、この手術を指導してくださったヨーロッパの先生方、特にイギリスのRedfern先生の方法で行っています。MTP関節の(亜)脱臼の有無や程度、PIP関節の拘縮などには個人差があるので、十分整復できるところまで段階的に矯正手技を追加していきます。この方法で、今までMTP関節の亜脱臼は90%以上整復可能でしたが、脱臼例ですでに転位が著しい場合は、亜脱臼までには改善しますが、完全整復が難しいことがあります(脱臼の完全整復率は約60%)。この際は、MISではなく、途中で普通に切開する術式に変更するか、MISでできる範囲で症状が残りやすいところを重点的に追加骨切りするかを判断します。当科でこの手術を受ける方は、たいてい御高齢で皮膚や骨も弱いので、術後の合併症のことも考えて、MISでがんばることが多いです。実は、(亜)脱臼そのものには痛みはなく、むしろ変形によって靴や床に当たる胼胝が痛いのが患者様が困っている症状なので、それらが改善するのであれば、必ずしもMTP関節を完全整復しなくてもいいのではないか、というのが師匠Redfern先生の考え方です。

 手術の段階としては、まずPIP関節部分で短趾屈筋腱を中節骨から切離します。また、PIP関節底側関節包も切開します。これだけでは、たいていの場合矯正が不十分なので、MTP関節の伸展やPIP関節の屈曲の程度に応じて、基節骨を切って屈曲させたり、短縮したりします。MTP関節の(亜)脱臼もある場合は、MTP関節の背側関節包を切開し、さらに必要に応じて側副靭帯と側方の関節包も切開します。これでもMTP関節の整復が困難な場合は、伸筋腱も切ります。骨間筋、虫様筋という筋肉は残るので、足趾が全く動かなくなるわけではありません(術前から麻痺や拘縮で動かなければ、術後も動きませんが)。さらに、中足骨の短縮、中節骨の背屈骨切り、基節骨顆部背側部分切除を追加することもあります。PIP関節も脱臼していたり、関節症変化が著しい場合には、PIP関節固定術になることもありますが、極力関節を残すようにしています。術後、他趾が押してきて骨切り部に影響が出る可能性があったり、骨切り部が不安定になった場合には、ワイヤーを1,2本追加することがありますが、一時的にでも関節ごと固定すると関節が固くなる傾向があるので、最近はなるべく関節を通すワイヤー固定は避けるようにしています。

実際の手術例

第2趾のハンマー趾と外反母趾の例です。

     術前(立位)          術後(立位)

  術前(立位)    術直後    その後(立位)

外反母趾も同時に矯正していますが、第2趾の骨切り部が母趾に押されて影響を受けないよう、テーピングではなく、ワイヤーを入れて固定を補強し、3週後に抜きました。

ハンマー趾だけでなく、外反母趾、第2MTP関節亜脱臼と内反変形もあった例の、立位での術前後のレントゲン写真です。全て同時に矯正しています。第2趾は少し浮趾が残っています。

これは、いわゆるマレット・トーの例です。踵の骨折の後に指が変形し、主に第1関節(DIP関節)で曲がって伸びないため、指尖部が当って痛いとのことでした。

母趾以外の足趾の底側に3mmくらいの切開をして、長趾屈筋腱とDIP関節包の底側を切開しました。術後、指先の皮膚症状もよくなっています。

長所、短所

長所:従来法より小切開のため、術後の痛みや腫れが少なく、早期から歩行が安定します。

短所:完全脱臼が完全整復されない場合もありますが、従来法でも100%整復できるわけではありません。骨癒合の遷延や変形治癒を予防するため、患者様の十分なご理解とご協力が必要ですが、これは従来法でも同様です。

手術による合併症の可能性

従来法と同様、以下のような合併症を生じる恐れがありますが、可能性は従来法と同等または少ないとされています。

 感染、神経・血管・腱損傷、熱傷、縫合不全、骨癒合不全(偽関節)、骨棘や増生した仮骨による刺激、浮趾、中足骨頭壊死、再発、変形性関節症の進行、疼痛部位の変化、再手術、関節可動域制限、使用した薬の副作用、深部静脈血栓症、肺塞栓症など。

手術までの流れ

術前検査:予め、外来で必要な検査を行います。既往症や、検査結果に問題があった場合などには、事前に当院・当該科の受診が必要です。かかりつけ医師からの情報提供が必要な場合もあります。

 術前後に中止が必要な薬もあります。服用されている薬は、必ず全てご申告ください。

装具の購入:術後に使う靴型装具を装具士から購入していただきます。同時に他の手術も行った場合は装具の種類を変えることがありますが、普通は底が平らで固く、曲がらないものです。残念ながら保険はききません。税抜きで3000円です(2021年現在)。左右兼用のため、同様の術式であれば、後日、反対側の手術の際も使えます。

例:

 

入院、手術、退院

*海外では、ほとんどが日帰り手術ですが、日本では保険制度などの諸事情から、短期間の入院になることが多いです。

入院:手術の前日に入院していただきます。手術当日は、麻酔専門医が全身麻酔または腰椎麻酔を行います。

 日帰り手術を希望される場合は当科での局所麻酔になりますが、基本的には短期間でも入院をお勧めしています。

手術当日:手術時間は、どの段階の手技まで必要かで変わりますが、標準的には1趾10〜15分くらいです。ほとんどの場合、外反母趾など他の変形も合併しており、同時に矯正したほうがハンマー趾の再発率が50%減ると言われているのと、そもそも外反母趾を矯正しないと第2趾が矯正不可能なこともあるので、同時手術をお勧めしています。なので、そちらの手術の時間と、さらに術前の麻酔や準備の時間、術後のレントゲン写真、麻酔からの覚醒なども含めますと、手術室に入室してから退室するまで、2,3時間かかります。

 手術当日から、感染予防のために抗生剤を投与します。鎮痛剤も投与します。

術後:麻酔法にもよりますが、ハンマー趾の矯正だけなら、手術当日または翌日から靴型装具を付けて歩行を開始します。ただし、当初は腫れるため足部の冷却と挙上が大事で、抜糸するまでは下垂や歩行は1時間のうち15分以内をお勧めしています。

 抜糸は術後2週くらいで行っています。指の間のガーゼまたはテーピングによる固定を1か月ほど継続します。ワイヤー固定も追加した場合は、術後3週くらいで抜いています。

退院:術後経過で特に問題がなければ、数日以内で退院可能です(ほとんどのかたは、3泊4日です)。ただし、組み合わせた術式によってはしばらく荷重ができなかったり、遠方で通院するのが大変といった場合には、入院の継続を希望する方もいます。

術後の通院

最初の1か月は1週おきで、その後は徐々に間をあけていきます。靴型装具の使用は6週間くらいで、その後はスニーカーなどに変更します。踏み返しは術後2か月くらいから、順調なら軽い運動は3か月後くらいから行うのが目安です。ただし、術式や骨癒合の具合、年齢などによって変わることがあります。

 術後3か月以降は3〜6か月おきで、半年から1年後くらいまでは様子をみますが、もとが重度変形だったり、同時に重度の外反母趾なども手術した場合には、その後もフォローさせていただくことがあります。

 なお、個人差もありますが、術後3か月くらいは足がむくみます。

費用の概算、その他の注意

ハンマー趾の手術も、外反母趾などと同様、保険がききます。詳しくは、会計窓口にお問い合わせ下さい。

*術式、組み合わせの手術の有無、入院期間、保険などによって、費用が変わります。

*一般に、通常の靴が履けるようになるには6週間くらい、しっかりした骨癒合が得られるのに3か月くらいかかり、患者様の十分なご理解とご協力が必要です。手術するかどうか、どの術式で行うかは、診察・検査と、よくご相談させていただいた上で決めています。

*両足同時の手術を希望される方も増えてきました。車の運転は装具が外れてからになりますので、すぐに車を運転したい場合は、運転に支障が少ない左足からの手術をお勧めしています。

代表的な参考文献

Redfern DJ, Vernois J. Percutaneous surgery for metatarsalgia and the lesser toes. Foot Ankle Clin 21(3):527-550,2016.

Vernois J, Redfern DJ. Percutaneous surgery for severe hallux valgus. Foot Ankle Clin2016;21:479-493.

De Prado M, Ripoll PL, Golano P. Hammertoe syndrome. In:De Prado M, Ripoll PL, Golano P,editors.Minimally Invasive Foot Surgery, Barcelona: About Your Health;2009,219-238.

Carvalho P, et al. Percutaneous flexor digitorum brevis tenotomy: An anatomical study. Foot Ankle Surg, 2021. online ahead of print.

Shima H, et al. Surgical reduction and ligament reconstruction for chronic dorsal dislocation of the lesser metatarsophalangeal joint associated with hallux valgus. J Orthop Sci 20:1019-1029, 2015.

Frey S, et al. Percutaneous correction of second toe proximal deformity: Proximal interphalangeal release, flexor digitorum brevis tenotomy and proximal phalanx osteotomy. Orthop Traumatol Surg Res 101(6):753-758,2015.

Yassin M,et al. Hammertoe correction with K-wire fixation compared with percutaneous correction. Foot Ankle spec 10(5),421-427, 2016. 

ご興味のある先生で、参考文献を探しておられる方に、MIS足の外科センターからのおすすめの書籍を掲載しておきます。

下の本では、私の師匠の先生方が、lesser toeの章を書かれています。特にこの章は非常に秀逸な内容で、私も手術のたびに読み返しています。特に治療のアルゴリズムが参考になると思います。

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