MISのコツ:ハンマー趾に対する選択的FDB切離術(足の外科医向け)

MISの手技の細かい点についてコツなどを書き溜めたメモが、気がつけば約40項目になっていました。一番分量が多いのは外反母趾に対するMICA法のファイルで、現時点で38ページ、31000字以上になります。(^^;)

最近、他院の医師の方にもMISについてご興味を持っていただくようになり、手術見学に来られる方もおられます。また、学会のときにも、手技などについてご質問をいただくことも増えてきました。見学や学会のときの短い時間では十分お伝えできなかったことも多いと思うので、情報を提供、共有させていただければと思います。

患者様にはあまり興味がないところかと思いますので、専門用語や略号が入ることをお許しください。(^^;)

第1回は、ハンマー趾に対する選択的FDB切離術についてです。フランスのPiclet先生の方法で、とても優雅な方法だと思います。

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拘縮したハンマー趾を用手的に整復(オステオクレーシス)していたとき、実際には何が切れているのか興味を持って文献検索をしたことがあります。その時は、探し方のせいもあるのかもしれませんが、解剖学的な文献は見つけられませんでした。おそらくPIP底側の関節包やFDBが切れたり、一部骨折を生じているのだと思いますが、血流障害を生じたりするリスクもあるので、中で一体何が起こっているのかわからないのは気持ちが悪いです。外科医たるもの、やはり解剖学的な知識を駆使して、必要な箇所に必要十分な操作を加えるというのが理にかなっていると思います。

ここでハンマー趾に対するMIS手技ですが、MISの歴史的には、Prado先生たちが本に書いておられ、他の文献などではsystematic flexor tenotomyと呼ばれる方法があります。この方法は、底側クリーゼの1cmほど近位にビーバーメス64番などを刺入し、基節骨基部底側に達したところで刃を90度回転させて、骨に当てながらFDL、FDBとも切離する方法です。術後、虫様筋や骨間筋の機能が残っている例であれば、MTP関節レベルでの軽度の底屈は可能ですが、底屈力が減少するというデメリットがあります。これに対して、選択的FDB切離術、selective FDB tenotomyでは、FDBの切離とPIP底側関節包の切開のみを行います。

①systematic flexor tenotomy、②selective FDB tenotomyの模式図。楕円は皮膚切開、矢印はメスを進める方向です。

解剖学的にはFDLとFDBの位置関係は上図のようになっているため、底側からのMISアプローチで選択的にFDBのみ切離するのは困難なように思われますが、この方法では側方からアプローチすることで、この問題を解決しました。FDLが残るので、DIPまで屈曲でき、屈曲力もsystematic flexor tenotomyより保たれます。

具体的には、PIP関節の底内側(私は内側からのアプローチが多いですが、外側からもできます)にビーバーメス64を刺入し、基節骨遠位底側を反対側に向けて滑らせて関節内に入れます。ワイパーモーションをすると底側関節包と中節骨基部の付着部でFDBが切れることになります。FDBの中節骨への付着は内側、外側の2箇所ありますから、どちらも切離しますが、内側が切りにくいです。

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内側を切る際にはPIP関節に外反力をかけると切りやすくなります。確実に切れたかは、同じ切開創から入れた小ラスパで、中節骨底側が外側から内側までスムースに触れるかを触診します。この後、PIP関節が容易に過伸展するのも確認します。

ただ、術中に透視で側面像を見るのは拡大機能を使っても見づらいですし、他の足趾にも変形、拘縮があると重なってしまったり、股関節に拘縮がある方なども、側面像が見づらいです。また、側面像を気にするあまり、メス先が外側に出るリスクもあります。私は、スペインでのカダバー・セミナーで、足趾を把持していた自分の指を刺しました。(^^;)

最近では、どの先生だったかは忘れましたが、海外のセミナーで聞いた方法で行うことで、正面像を主として側面像は確認程度とし、被爆時間も軽減するようにしています。

①メスの刺入点、②メスの進入方向、③底側関節包切開と外側FDB切離、④PIP関節に外反力をかけながらの内側FDB切離、⑤過伸展するかの確認

具体的には、①まず正面像で基節骨顆部内側正中からやや底側にビーバーメスを当てます。②遠位外側に向けて刃を底側に滑らすと、もともとハンマー趾でPIP関節が屈曲していますから、メスがPIP関節内に入ります。外側に刃が出ないよう、透視下に確認します。③ここで皮切をピボット・ポイントとしてワイパーモーションをして、中節骨基部底側に刃を滑らすと、底側関節包の切開と外側FDBの付着部切離ができます。④先に述べたように、切りにくい内側のFDBは、PIP関節を外反させながら、刃先を内底側に進めて切離します。⑤小ラスパで触診、過伸展することを確認するのは同じです。

側面に術創ができて縫合・抜糸が若干やりにくいので、術創がやや大きくなった場合を除いて、最近は縫合はしていません。

実際には、この後に基節骨の底屈骨切りや完全骨切りを追加することがほとんどですが、それについては次の機会に説明させていただきます。

最初期の症例の切開創です。

ご興味のある先生で、参考文献を探しておられる方に、MIS足の外科センターからのおすすめの書籍を掲載しておきます。

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