足の外科のMISでは、以前にご紹介したバーを接続して骨切りを行うためのモーターが必須です。
通常の整形外科用の器械をそのまま使うと、骨切り時の発熱で皮膚や骨にもヤケドを起こす危険があるからです。そのため、低回転で高トルクのものが、マスト・アイテムです。
アメリカの足病医が始めたMISですが、その黎明期に同じアメリカの整形外科の足専門医には浸透しなかったのは、普通の整形外科の器械を使ってトラブルが起きたことが主な原因だったようです。また、十分な解剖学的裏付けもなく、その解決はスペインに渡ってから、故Golano先生たちの研究成果を待つことになります。
さて、この器械ですが、当初、ヨーロッパでもアメリカでも、海外のMIS手術セミナーで使われていたモーターは、2社の3種類あり、驚いたことに、全て日本製でした。
しかも、あまり国内では整形外科の手術器械としては聞いたことのない(失礼)会社のものでした。
海外の先生方は、口を揃えて、「日本製はいい。他の国の器械の数分の1の値段で買えて、しかも多少手荒に扱っても、全く壊れない」と褒めていました。
日本に戻って、さっそく器械を販売している会社に問い合わせたところ、2社の会社とも、海外でMISに使われていることを知りませんでした。
そのうちの1社、長田電機工業と交渉したのですが、残念ながら、発生する電磁波の問題か何かで、一番安いモデルは国内での販売が許可されていないとのことでした。しかたなく、ヨーロッパでも見た、同じ会社の新型のほうにしました。
その時点では、まだ他の器具も十分揃っておらず、きちんと使えるかどうかわからない器械を導入してもらうように病院と交渉するのも面倒だったので、自費で買いました。
これが、現在までの私の愛機です。
非常にコンパクトで、これ一式で驚くほど安価です。面倒な設定もいりません。
あとで先端に注水パイプ付きのパーツがオプションであることを知り、買い足しました。
そのパーツを接続できるチューブが必要でしたが、院内で見つけた細い点滴用のものが適合しました。それを術中の取り回しがいいように、ステリー・ストリップという清潔なテープでハンドピースに固定しています。その先を、動脈圧を測るための加圧バッグに入れた生理食塩水のバッグにつないで、三方活栓でオン・オフすることで、骨切り時の発熱対策として水をかけています。
しばらくたって、たまたま歯の治療をしているときに、かかっていた歯科の器械が長田電気工業のものであることに気づきました。あとで知り合いの歯科医から聞いたところ、歯科の器械では有名なブランドだそうです。
この記事を書くために、今日(2022年2月11日)、アメリカ足病医用の通販サイトを久しぶりに見たところ、最初に希望していた長田電気工業の廉価モデルは、今も販売されていました。本体、ハンドピース、フットペダルのセットが2695ドルでした。10年以上前ですが、確か2000ドル未満だったので、値上がりしていますね。
すでに新型を購入した後でしたが、アメリカの足病医向けの手術セミナーに参加したとき、一緒に講習を受けた中国の先生は、会場でこちらの器械を即買いしていかれました。
今となっては、私が買ったモデルとあまり値段が変わらなくなっているし、こちらのほうが新型で、十分元は取ったと思います。ただ、完成度とコストパフォマンスがいいせいか、その後の改良版は出ていません。確か、一度だけ、ハンドピースのところから水を出すための生理食塩水を、本体の後ろにセットできるタイプが出たことがありますが、すぐに消えてしまいました。
残念ながら、最近は海外で使われている器械は、スイスやイタリア、アメリカ製になってしまいました。足の外科のMISに使いやすいよう、いくつか改良が加えられています。
日本では、私が使っている器械以外に、ようやく昨年からアメリカの器械が販売されるようになりました。こちらは、まだ掲載許可をいただいていないので、今回は残念ながら写真はお見せできませんが、また機会があればご紹介したいと思います。
ヨーロパでは、最近、ディスポーザブルの器械も出たようです。
10年前は欧米の器械も日本が独占状態だったのに、残念ながら私が行っているタイプのMISについては最近までほとんど認知されることがなく、まだまだ遅れていると言わざるを得ません。