足の外科のMISで、骨を切るのに使う器具です。
ドリルに似ていますが、刺すためではなく、横方向にのみ切る能力のあるバーです。サイド・カッティング・バー、海外ではシャノン・バーなどとも言われます。シャノンとはたぶん人の名前だと思うのですが、会ったことはなく、いかなる人物なのかは未だに不明です。
2010年のスペインでの手術セミナーでは普通に使われていましたが、日本に戻って探しても扱っているところはおろか、知っている器械業者もいませんでした。しかたなくアメリカの器械業者に連絡を取ったのですが断られてしまい、アメリカの足病医向けの通販サイトから個人輸入することにしました。が、税関で止められてしまい、厚労省などにも書類を書かされて、ようやく手元に届きました。
その後は、アメリカのFDA(日本の厚労省のようなところ)のホームページで認可された器械の一覧を調べたところ、ドイツ製のものを見つけました。このドイツの会社の製品を扱っている日本の業者に連絡を取ったところ、国内でも販売してもらえるようになりました。新型コロナの影響でドイツからの供給はストップしてしまいましたが、ちょうど同じ頃からアメリカ製のものが使えるようになり、現在はこちらを使っています。
いくつか種類がありますが、写真の一番上と一番下のストレート・タイプは主に骨切り用です。太さには2mmと3mmがあり、切る部分の長さは5〜20mmまで数種類あります。
真ん中のやや太いものは骨を削るためのもので、これは太さ2.9mmですが、もう少し太いものもあります。
ギプスを切る道具のように、固い骨は切れますが、柔らかい腱や神経は切れにくい構造になっています。実際、イギリスの手術セミナーに参加したときに試しましたが、骨切り部の直ぐ上にある長母趾伸筋腱に当てても、焼き切るまで切れませんでした。
ただ、皮膚の熱傷や挫滅には注意が必要で、専用のモーターを使い、できるだけ低回転で、水をかけて冷却しながら骨を切っています。
バーの切る部分が皮下に入った状態にしておくことも重要です。また、反対の手、あるいは空いている指で、創の端をバーが傾いていく方向と反対に引っ張って、バーが皮膚に当たりにくいようにしています。
単純な道具に見えますが、操作にはある程度の習熟が必要です。回転するもので骨を切るので、思ったよりコツがいります。切っている骨の中でも回転してずれる可能性があります。固いところは弾かれるので、若い方の骨は硬くて切りにくく、柔らかいところは切れやすいので、高齢者だとぶれないように注意が必要です。
また、2mmの太さのバーでも3mmほどの切れ幅が出るので、それも考慮に入れた術前計画が必要です。
硬い骨を切ると切れ味が落ちるので、交換も必要です。
最近は、アメリカの整形外科の足専門医も使う方が増えてきたためか、久しぶりにアメリカの足病医向けの通販サイトを見たら、値段が上がっていました。需要が増しているのだと思います。MISが世界に認められるのは歓迎ですが、バーの供給不足や高騰には、うれしい悲鳴をあげています。